平日の国内線。しかも行き先は地方都市でもない地域だ。
そうなれば空席も有り余っている。
何の問題もなくチケットを購入し俺は東京(ここ)から旅立った。

飛行機の中でも気が急いた。
空港に到着すると同時にここでもタクシーに乗り込む。
行き先を告げると運転手は。

「運賃高いけどいいだぁか?」

と質問する。
そんな事は百も承知なんだ。
とにかく急いで行ってくれと懇願する。

金の事で悩んでいる場合じゃない。
こういうときは惜しみなく使わなきゃいけない。

目的地の病院に到着した俺は運賃を払い、飛び出すようにタクシーを降りた。
全速力で走り病院の受付で彼女の部屋を尋ねる。

田舎とはいえ病院の規則は徹底している。
誰でも彼でも面会の許可は出ない。
俺の素性を詳しく聞かれ、その内容を専用の用紙に記入してようやく許可がおりた。

廊下は走ってはいけないとわかっていても思わず駆け出してしまいそうになる。
平静を保ちながらやっと雪穂のいる病室に辿り着いた。

個人情報保護の観点から部屋の入口に患者の名前が書かれたものは一切ない。
彼女が入院しているのが精神科病棟だったので相部屋といっても二人部屋だった。
ドアを引くと両サイドにひとつずつベッドがあるようだった。
ひとつはカーテンが開いていて誰もいない。ベッドにシーツも敷かれていないから恐らく今は雪穂一人が入院しているのだろう。