ベッドに腰かけるとフワリといい匂いがする。
布団が心地いい肌触りだ。
干してはいないだろうが乾燥機をかけてくれたのかもしれない。

携帯を取り出した俺は雪穂に電話をかけた。

『もしもし…加賀見さん?』

「今、大丈夫ですか?」

『はい…』

俺は雪穂に親父の状態を詳しく話した。
そしてとりあえずしばらくこちらにいるつもりだとも。

仕事は疎かにしたくないからいつまでもというわけにはいかないが。
じゃあいつまでいるのか、という期限も決められない。
今の俺の正直な気持ちを
隠すことなく伝えた。

『加賀見さんが納得されるまで…いて差し上げてください』

「雪穂さん…」

『加賀見さんの大切なご家族です。心残りのないように…』

「父のことが落ち着いたら必ず戻ります…」

そう…雪穂に約束した。
でも次に雪穂に会えるのがいつになるのか。
俺にもわからない。

このときの俺は。
再会した家族があまりにも様変わりしていたのと。
親父の病状に気を取られ。
雪穂の不安を慮る余裕がなかった。

少しずつ克服していたトラウマを
再び思い起こさせるような状態に彼女が陥ることになろうとは。
夢にも思っていなかった。