「埃だらけになってんじゃねぇの?」

「相変わらず定期的にプロのお掃除業者に来てもらってるの」

そこは変わんねぇのか。
まぁ…仕方ないかもな。昔からこの人は家事が苦手だから。
親父も苦手なものを無理してしなくてもいいと、母と姉を甘やかしてきたから。

でも考えようによってはそれは間違ってはいないのかもしれない。

女が家事の一切をやらなきゃならないなんて決まりはないんだ。
できる人、得意な人がやればいいし。
そもそもやらなくても大丈夫ならそれでもいい。

親父は案外柔軟な考え方の持ち主かもしれない。

「今夜はご馳走ね!」

母が意気揚々と叫ぶ。

「どっかのケータリング?」

俺の突っ込みに皆が笑った。
…なんだか…信じられないけど…
あったかい…。
この家族といて初めてそう、思った。

姉について二階に上がり、自室に入った。
そして驚いた。キレイに片付けられている。
机にも棚にも。
埃ひとつ見つからない。

そして本棚に収められている本も。
俺が出て行ったときと何ひとつ変わらないままで。
懐かしさに思わず目を細めた。

大学に入ってから一人暮らしを始めるためにこの家を出たから高校生までしか過ごしていない。
それまでの記憶で、あんまりいい思い出はないって…思っていた。

でも今、多少なりとも懐かしく思えるってのは…
実はさほど悪くなかった、のかもな…。