これで俺がこのまま雪穂のところへ戻ったらきっと。
なんで戻って来たのかって怒られるだろうな…。
この状態の家族を置いて戻るなんてできない。戻って雪穂に説明も…
できない。

「しばらく…ここにいる…」

「えっ?」

声をあげたのは姉で母は驚愕の表情で俺を見、親父は穏やかに微笑んだままだった。

「章ちゃん…いえ…章悟…ここにいるって…」

「今仕事が閑散期で…しばらく休みになるんだ…だから…繁忙期になるまではこっちにいても問題ない…」

「閑散期と繁忙期って…一体アンタ、どんな…」

真由子(まゆこ)、やめなさい…」

姉を止めたのは親父だった。

「章悟が大丈夫と言うなら大丈夫なんだ。章悟…お前さえよければ…しばらくいてくれるか?」

親父が俺に何かを言うとき、それはいつも。
自分で勝手に決めて、決定事項として通達されるだけだった。
なのに今は…
俺の気持ちを聞いてくれている。

「ああ…」

本当はもっと…
何か気の利いた言葉を親父に掛けてやるのがいいんだろう。
でも長い間の確執が…俺をそこまで素直にはさせてくれなかった。

涙を溢れさせていた母がゴシゴシと手の甲でそれを拭う。

「章悟…あなたのお部屋は昔のままにしてあるのよ」

「え…」

帰って来るかどうかもわからない、むしろ帰る確率のほうが圧倒的に低いだろう息子を待って、たのか?