姉はいつだって自己中心的で利己主義だと思っていた。
行動原理はすべて自分の欲からで。
誰かのために行動するなんて絶対にしない人だと。
…思っていた。

でも実際のこの人は
違ってたっていうのか…

「お前に会えないまま…旅立つのかと思っていた。会えて良かった…」

こんなに…
穏やかに話す親父を俺は知らない。
この人のこんな柔らかい笑顔も
俺は…知らなかった…。

いつもは機関銃のように話す母が。
ほとんどしゃべらず親父に寄り添っている。

これが俺の嫌っていた家族なのか…。

今まで俺がずっと考えていた家族と。
今目の前にいる家族は。

何もかもが違っている。

「ありがとう…。お前も…体にだけは気をつけて、な…」

親父に続いて母が涙ぐみながら、でも気丈に言う。

「色々とごめんなさい…。会社の方々にもご迷惑をかけて…。今日は来てくれて本当にありがとう…。気をつけて帰るのよ…」

…どうするんだよ…。
俺は。どうすればいいんだよ…。

このまま
この人達に言われるまま。
帰ればいいのか?

もしかしたらもう二度と
生きている親父には会えないかもしれないのに。

迷う俺に姉がトドメを刺す。

「早く…行って…。もう…来なくていいから…」

来いって言ったくせに。今度は来るなって言うのかよ…。
どれだけ…
どれだけ自分勝手なんだよ…。