言った後にしまったと思う。
ダメだ。
つい、いつもの調子でこんな言い方をしてしまう。
これじゃまるでケンカを売っているのと同じで。
雪穂に報告できるような建設的な話をしなくちゃいけないのに。

俺はいつまでも大人になり切れていない。情けないけど。

そこで親父が声を出した。
この人の声を聞くのは何十年振りだろう。
家に帰って来る以上に、この人を見るのが久しぶりだった。

「章悟。仕事は楽しいか?」

いきなり何十年か振りに話した言葉が仕事とは。
この人の人生がいかに仕事中心だったかが伺える。

でも俺はこの人への対抗意識でもなんでもなくただ純粋に、仕事が楽しいと胸を張って言える。

「楽しいですよ」

親父はフッと笑みを漏らして言った。

「いい顔になった…。仕事に責任を持った男の顔だ…」

え…?
今、なんて?

「お父さん。私もそう思っていたの。若いころのあなたにそっくりだって。やっぱり血は争えないわねぇ…」

母親がうっとりと俺の顔を見つめながら言った。
親父の若い頃にそっくりだと言われると少し複雑だ。
子供の頃の俺から見れば親父はとても恐ろしく見えたから。

そこへまるで俺の気持ちを代弁するかのように姉が口を挟む。

「お父さんと同じじゃ強面じゃない。章悟は違うわよ。同じいい顔って言っても柔らかさもあるんだから」

昔同様俺を褒めて褒めて褒めまくる母と姉。
でも…
なんとなく今の感じは。
昔の手放しで褒めちぎっていたのとは違うような…