インターホンを鳴らすと自動で門扉が開いた。

長い長い玄関までのアプローチ。
たくさんの季節の花が植えられた庭。
もちろん人に頼んで手入れしてもらっている。
何もかも昔のままだった。

必要以上に大きな玄関ドア。
俺くらいの図体の人間が横並びに五人くらいは一度に入れそうだ。

玄関ドアの横にもインターホンがある。
俺だとわかっているだろうがこれも押す。
ここはさすがに自動では開かない。

中から人の足音が聞こえてくる。
意外と早い反応に少しだけ驚くが。
昨日の今日だから。
姉ものんびりとは構えていられないのだろう。

ガチャリ。
ドアが開いて顔を出したのはやはり姉だった。

「章悟…。お帰り…」

珍しく真摯な態度。
面食らってしまうがこの程度で情けを見せるわけにはいかない。

「帰って来たんじゃない。お邪魔します」

辛辣に言ってのけ、上がった。
自分の家だけれど自分の家じゃない。
そんな奇妙な感覚に囚われるのは今に始まった話じゃない。
その感覚は。
俺がいかにここで地に足をつけずに浮いていたかを表している。

家族も同様に。
どこか偽の家族を演じているような。
そんな感覚だった。

リビングに入ると昔からの定位置に母親と、病気だという父親の姿もあった。

俺の姿を見て母親がまず立ち上がる。

「章ちゃん…」

涙ぐんで俺に近づいてくる。
いい年した息子に「ちゃん」付けするところ。
反吐が出るほど胸糞が悪い。

「いい加減その呼び方やめてくんない?俺もう三十過ぎてるし」

「あっ…そうね。ごめんなさい…。つい…懐かしくて…」

「昔話しに来たんじゃねぇんだ。姉さんから聞いてると思うけど。俺忙しいんで。とりあえず話だけ聞きに来ただけだから」