そうだ。着信拒否に設定しとこう。
もう面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。

フゥ…これでやっと解放される。
早く帰りたい。帰って蔵に行って。
あの独特のひんやりした空間に。
俺の大切な場所に戻りたい。

そして。
誰よりも愛しいあの人に。
すべて終わったと報告するんだ。

着信拒否にしようと携帯を握りしめたところで突然の着信音。
姉なら出ないと思ったが。
…発信は雪穂からだった。

寸分の間もなく応答する。

「はいっ!」

『早い…ですね…』

「ちょうど携帯を持ってたんで…」

『あ…お電話するところでしたか?』

「はい。あなたに」

『え?』

俺は雪穂にさっきの姉との会話を説明した。そしてどうでもいいことで手間を取られ、仕事を置いて来たのを詫びる。
それから明日。
朝一番でそっちへ帰ると伝えた。

俺の話を聞いている間、雪穂は相槌を打つだけで何も挟んでこなかった。
だから俺の話を聞いて。
俺の感情に共感してくれているのだと。
思っていた。

でも。違った。

雪穂は静かに言った。

『加賀見さん。まだ戻って来ないでください。そんな状態で戻って来るのはいけません』

「えっ?」

俺は雪穂の言っていることが理解できないでいた。いや、言っていることはわかった。わかったけど、それは。
雪穂が言った言葉の意味はわかるが彼女の意図することがわからない。
要するに雪穂の気持ちが。
わからなかった。