すぐに理由を話し出すと思っていたが。
意外にも姉はスッと黙った。

なんだよ…。やっぱ大したことじゃねぇんだろ?

『お父さんが…』

「は?」

『だから…お父さんが…病気なの…』

「病気?親父が?」

大変なこととは親父の病気。
俺の居場所を探して連絡を取らなきゃいけない状態。
イコール…
命にかかわる、状態。

もしそうだとして。
俺は…
今何の感情も沸き上がっていない。
それくらい。
親父との関係は希薄だったんだ。

「で。今にも死にそうなワケ?」

『えっ?』

「何年も連絡してなかった俺を探して。あまつさえ会社にまで乗り込むくらい切羽詰まってんでしょ?だから。死にかけてんのかと思って」

自分でも怖いくらい冷たい言い方だった。

『違うわ。腎臓が悪くて…このままだと透析しないといけないかもって…』

涙声で話す姉に俺の感情が沸騰していく。
ヤバい…すぐ沸点に到達しそうだ…。

「確認させて。今はまだ透析するって話じゃねぇの?」

『グスッ、…そ、そうよ…でもね…このままほっといたら…そうなる、って…』

ハァ…
このまましゃべり続けてたら俺の精神が崩壊しそうだわ。

「今すぐ死にそうって話じゃ、ねぇんだな?」

しつこいが念押ししとかねぇと。

『そう、だけど…でもねっ!あのお父さんが…あんなに元気だったお父さんがっ…すごく痩せて…いつも辛そうで…』

だから?
悪いが俺はアンタたちと違ってもう長いあいだ親父の姿なんて見てないから。
ちっさいときに威圧的だった親父のイメージしかねぇから。
元気だった、とか。
痩せる前の姿とか。
そんなん全然思い出せないわけで。

俺は姉を無視して電話を切った。