「帰ってきます…。たとえどんなに説得に時間がかかろうとも…必ず…」

腕の中の彼女が少し震えた。
そして涙声で俺に答える。

「待ってますから…。信じて…」

あぁ…ダメだ…。
愛し過ぎてどうにかなりそうだ…。

「信じてください。俺の気持ちは絶対に揺るがないし変わらない。俺の居場所を作ってくれたここの皆さんに…心の底から感謝しています」

「…はい…」

このままでいるとさすがの俺も理性のタガを外してしまうかもしれない。
そう思い。
そっと彼女を腕の中から離した。

「すみません…つい…失礼なことをしてしまって…」

彼女は無言のまま頭を左右に振った。

「じゃあ…そろそろ失礼します。おやすみなさい…」

「おやすみなさい…」

会釈して部屋を出た。
離れに戻って寝巻に着替える。
顔を洗って歯を磨いて。寝支度を整える。

目まぐるしく過ぎた今日一日を思い出してみる。

取り立てて変わったことが起きない平穏なこの土地で。
今日の出来事は滅多に起きない珍事だろう。

だがそのおかげで。
思わぬ幸運もあった。

雪穂の気持ちを伺い知ることができたからだ。

きっと彼女の気持ちは。
今どんどん俺に傾いてきている。
それはもはや確信に近い。

今日折原がきてくれなければ気付かなかっただろう。
そう思えば折原の突然の来訪が契機になったんだ。

俺は固く決意した。
たとえ何があっても。
俺は必ずここへ戻る。
そしてそのときこそ俺は。
彼女に再び愛を語り。
永遠を誓う、と。