出てきた彼女はもう寝る準備を整えているようだった。
メイクも落として素顔で。髪からは仄かにシャンプーの香りが漂っている。

こんな姿を見せられたら。
封印している己の欲がムクムクと顔を覗かせてしまう。
俺はそれを必死に振り払って言った。

「夜分遅くに申し訳ありません。これ…車ありがとうございました…」

「わざわざすみません…。明日でも良かったのに…」

「返って失礼でしたよね…」

「いえ!そんな!」

それっきり会話が途絶えた。

彼女が寝ずに起きていた理由を。
聞いても差し支えないだろうか。

「寝るところだったんですよね?お邪魔してすみませんでした…」

ストレートに尋ねることができないズルい俺は。
わざと彼女の罪悪感に訴えるような言い方をした。

「いえっ!なかなか…眠れなくて…」

こういう返事を予想していなかったといえば嘘だ。
俺は彼女がこう言うことを予想して前振りをしたんだ。
折原のことを言えるか。俺も相当な策士だ。

「もしかして…気にしてくれたんですか?今夜の…」

「えっ…と…。…はい…なんだか…胸騒ぎがして…」

「差支えなければ今…お話してもいいですか?心配ならドアを開けたままで…。こんな時間にお邪魔しているのは非常識ですから…」

「わかりました…。どうぞ…」

俺は彼女に促され初めて部屋の中に入った。

小さいローテーブルの前にある座椅子に座る。
彼女は勉強用なのか年代物の学習机とセットの椅子に座った。