帰り道。
あっというまに到着するほどの短い時間ではあったが俺は折原との会話を思い出していた。

アイツの言うとおり一度きちんとケジメをつけなきゃならないだろう。
俺が連絡を絶ってからというもの、向こうから直接コンタクトを取ってくることがなかったから安心しきっていた。
完全に俺のミスだ。
油断し過ぎていた。

このまま知らん顔を続けても恐らくは…奴らの愚行がさらにエスカレートしていく可能性もある。

何を言われようとも。
たとえ刺し違えてでも。
俺は今の暮らしを、彼女を。
捨てるつもりはない。

その信念を曲げないでいれば絶対に大丈夫だ。

すっかり静まり返った中上酒造の土地に入ると、母屋にはまだ灯りが灯っている。
夜といってもまだ真夜中でもない。
起きていても不思議はないか…。

でも…
なぜか気に掛かる。
雪穂が今日のことを。
気に病んでいるかもしれない…。
不安を抱えて眠れないのかもしれない…。

俺は思い切って母屋に寄った。
初めは明日の朝車の鍵を返すつもりでいたが気が変わった。

そっと玄関を開ける。
親方はもう寝ただろうか。

そんなことを考えながら玄関を上がり雪穂の部屋の前まで行ってドアをノックした。

「…お父さん?」

部屋の中から雪穂の声が尋ねる。

そうだよな。
こんな夜更けに女性の部屋のドアをノックするなんて。
彼女が自分の父親だと思って当然だよな。

「すみません夜分に…加賀見です…」

「えっ…!?加賀見さん?」

驚く声とほぼ同時にドアが開いた。