「とにかく一度戻ったほうがいいです。それで話してください。会社関係なく俺は…加賀見さんに一点の曇りなく幸せになってもらいたいんで」

「折原…、お前にそこまで思ってもらえるほど…俺はお前に何もしてやってないけどな…」

俺がそう言うと折原は少し憂いを帯びた表情で目を伏せた。

「周りの人間が…幸せになってくれればくれるほど…俺も幸せになれるんじゃないかと思えるんですよ…」

「そうなのか?…お前…案外聖人じゃねぇか」

「不幸がどん底だと…返って達観すんじゃないんですかね」

不幸って…
いつか聞いたあの。
不毛な恋の話、だろうか?
聞きたい衝動に駆られたが。
今は人のことを構っている状況ではない。
まずは己の問題を解決するのが先だ。

「お前がそういうふうに他人の幸せを願っている分、きっとお前も幸せになれる。俺はそう…信じてるよ」

「だといいんですけど」

その後はもう俺の母親と姉の話は出なかった。
会社の話や伊藤くんの話に終始した。

驚いたことに伊藤くんは元々この土地の出身だったらしい。
正確には違う市ではあるが。
だから折原はこの土地の事を店主から聞いてすぐに、伊藤くんに相談したらしい。

金に苦労していない折原は俺たちがこっちに来たときのように列車を乗り継いでなんていう悠長な方法ではなく。
飛行機でやって来たのだそうだ。
レンタカーを借りるのが一番おトクだと伊藤くんは言っていたらしいが。
土地勘の皆無な折原はたとえナビ付とはいえ、慣れない田舎の道を走るのは不安があったらしい。

だからってタクシーはかなり、いや相当贅沢だと思うが。