「けどお前、それだけで…」

「それだけじゃないですよ。あの日…俺と一緒に行った日に加賀見さん明らかに様子がおかしかったですから。誤魔化せたと思ったかもしれませんけど。違います。あの日。カウンターに女性が座ってたでしょ?あの人、合コンで加賀見さんにモノ申してた子ですよね?」

なんで…コイツはこんなに記憶力がいいんだ?
折原が俺の反応に口角を上げる。

「俺ね、口八丁だけど耳も目もいいんですよ。一度見た顔は忘れない。これって営業では有利ですよね。それにね、結構小さい声でも聞きとれるんです。まぁ…これはあんまり嬉しくないときもありますけど…」

「結局は?何が言いたい?」

「だから。俺はあの子と、加賀見さんが何かあると察知しました。店主とあの子の雰囲気から想像しても。あの子があの店の常連だというのは一目瞭然です。だから店主を揺さぶりました」

「揺さぶった…って?」

「加賀見さんの情報を得るためには必要不可欠だと直感的に思ったんです。彼女はきっと加賀見さんにとって特別な存在だろうと。彼女の存在ですべての謎が一気に解けたと思いましたね。突然居酒屋の理由も」

「なんだよ、突然居酒屋って…」

「フフ…ワインにしか興味がなかった加賀見さんを変えたのは彼女の存在。それが加賀見さんの退職の理由にも繋がっていると…踏んだんです。だから今のままだったら…加賀見さんが連れ戻されてしまうかもしれないと…店主に言いました。店主はそれくらいで大の大人が、なんて言ってましたけどね。そこはあれですよ。俺の話術を以て、ちょっと悩ましちゃいました」