「あれ、加賀見さん、どうかしました?」

「今ちょっといいですか?」

「え?ええ…いいですけど…」

「中田さんに許可をもらってきたので…」

「そうですか…。じゃあ、座ってください。コーヒーでも淹れましょうか?」

「いいえ、長居できませんから…いいです…」

俺はいつも食事をするときの自分の席に腰を下ろす。雪穂も同様だ。

「今夜、俺の食事は要りません…。東京から…以前勤めていた会社の後輩が突然やってきまして…。今夜どうしても俺に話したいことがあるらしいんで。ソイツが泊ってるホテルで…会うことになりました…」

「そっ…その人って…?」

なぜか雪穂はどもった。

「雪穂さん、覚えてますかね?例の合コンでうちの幹事だったヤツなんですけど…」

「えぇっと…」

雪穂は必死に何かを思い出そうとしている様子だ。

「あっ!もしかして…なんだか長いお名前の方?なんとか太郎さん」

なんとか太郎…。
確かに間違ってはいない。

「折原…城太郎ってヤツです」

「ああ!そうです、確かそんなお名前だった」

「それで…ソイツが隣町のホテルに宿泊してるらしいので。申し訳ありませんが公用車を貸してもらえると…これは親方にお願いしたほうがいいか…」

「だったら…私の車を使ってください。軽自動車で申し訳ないですけど…」

雪穂は心から申し訳なさそうに俺に提案した。

貸してもらう側の俺にとっては車種などは問題じゃない。
はっきり言って車ならなんでもいいというのが正直な気持ちだった。