折原の深呼吸が収まるのを待って腕を引っ張り、人気(ひとけ)のない場所まで連れて行く。

「ちょっと、どこ行くんすか?」

「いいから!来い!」

「痛いですって!」

ようやく誰からも見られる事がなさそうな場所まで折原を連れて来た俺はそこでヤツの手を解放した。
そして疑問を直接容赦なく折原にぶつける。

「何しに来た?っていうか何でここがわかった?」

俺のモノ言いには微塵の懐かしさも、同僚だった親しみも感じられない。
それくらい冷たく事務的に言い放った。

「ちゃんと順を追って説明しますから。だからそんな怖い顔しないでください」

「お前…帰りの交通機関は確保してるんだろうな?言っとくがこっちは東京(あっち)と違って最終の時間は早いしそもそもそんなに本数出てないからな。帰れなくなるぞ」

最早威嚇としか受け取れないような言い方で俺は折原に詰め寄った。

「心配ご無用です。今日はちゃんと宿泊施設予約してきてるんで」

宿泊だと?
ってことはすぐに帰らねぇつもりか?
そこまでして俺に何の用だよ?

「長い話なのか?」

「もしかして加賀見さん、今仕事の休憩ですか?だったらあんまし時間ないですよね?」

「察しがいいのは相変わらずだな。そうだよ。今は昼休憩中だ。また作業に戻らないといけない」

「だったら…仕事終わってから時間作ってもらえませんか?」

なんだと?
なんで俺がコイツの都合に合わせないといけないんだ?
俺は込み上げる怒りで冷静さを完全に欠いていた。