それはいつものように中田さんと畑で作業していたときだった。
珍しくタクシーが止まったと思ったら、その中から出てきた人物を見て驚愕した。

「…さん…!加賀見さん!」

俺の名前を呼ぶ声。
懐かし過ぎる顔が大きく手を振ってこちらに向かって来ていた。

「折原…。なんで?」

そう。
信じられないことに俺を訪ねて東京からやってきたのは。
ホテイビール時代の後輩でよく一緒に食事に行っていた折原城太郎だった。

思わず立ち上がる。

傍にいた中田さんが何事かと言った表情で俺とこちらに走ってくる折原とを交互に見ている。

「すいません…ちょっと、抜けます…」

「あ…ああ、いいけんの。行ってくぅだわ」

俺は折原を、中田さんをはじめとした蔵の人達と接触させたくなかった。
だから敢えて自分から折原を出迎えに行く。

「折原…お前、なんで?」

走ったせいで息切れしている折原に冷めた表情で尋ねる。
会社にいたころ。後輩だろうが誰だろうが敬語で接していたことも忘れ。
素の自分になってしまっていた。

「ちょ、ちょっと待ってください!水飲んでからでもいいっすか?」

「勝手にしろ…」

折原はリュックサックの中から水が入っているらしきペットボトルを取り出し一気に喉に流し込む。
口元から零れる滴を拭うこともしない。

俺はただ。
折原の喉仏が上下するのを、怒りを極限まで抑えながら見ていた。