黙り続ける俺に親方は言った。

「なんぞ盛大に勘違いしとるみたいだの」

「えっ?」

失望落胆している俺に向かってあろうことか親方は笑っている。
いくら人生の師と仰いでいる親方であっても。
その態度はないだろ?

「お前な。ちゃんと話聞いとったか?”一旦”言うただろ?一度、里帰りしといで」

「親方…俺は…実家も家族もいないんです。ここが…俺にとっての故郷なんで。里帰りなんて必要ありません」

「フゥ…」

親方は笑顔を一転し、真面目な顔になってため息を吐く。
そしてゆっくりと話し出した。

「雪穂から聞いたんだ。お前、家族になんも言わんとこっちへ来たらしいの?家族とうまくいっとらんとも聞いた。だがな。ワシと雪穂を元の親子関係に戻してくれたお前が…自分の家族とは断絶したままでいいわけなかろ?」

「それは…親方と雪穂さんは不可抗力でしたから…。でも俺の場合は違うんです。ずっと昔から…学生のころから確執があって。ずっと音信不通だったんです」

事実は…俺が一方的に音信不通にしているだけだ。
携帯を変えて番号も知らせずにいたし、就職先だって、引っ越し先だってわからないようにしたから。

「…お前がそれで後悔せんと言い切れるならええがの…。じゃあ家族でなくてもええ。誰かあっちにおる人で会うときたい人はおらんのか?言っとくがこんな優遇は今年だけだけんな。来年からはもっともっとしごいたるけん。覚悟しとけよ」

「親方…。お心遣いはありがたいと思っています。でも…こっちへ来ると決意したときにすべてを捨てて来たんです。今更未練がましく会いたい人間なんていません…」