日本酒造りが一段落ついたら今度は焼酎を仕込むと聞いている。
他には機械や道具の点検、修理、清掃等やることはたくさんある。
俺も酒造りが終わったからといって気を抜いてはいられないと息巻いていた。

が。
親方から信じられない言葉が飛び出した。

「加賀見。焼酎の仕込みは日本酒ほど大変でねから。お前は一旦東京へ戻れ」

「ち、ちょっと待ってください!焼酎の仕込みだけじゃなくて…機械の点検やら色々あるじゃないですか」

「そう言ってもお前。機械の点検や修理なんぞできんだろうが」

「それは…」

専門的な機械の点検だ。
知識も技術も身に着けていない俺ができるはずもない。
そんなことは重々承知だった。
だからこそ、作業を一緒に見せてもらって勉強させてもらうつもりだったのに。
何よりも。
仕事をさせてもらえないことより。
東京(あっち)へ戻れと言われたのがショックだった。

それは俺がこの蔵に必要ないと。
そういうことなのか?
俺の働きは当然まだまだ未熟で。
この蔵の役に立ったとは思ってない。でも…

皆と一緒に苦しみや悲しみ、そして喜びは分かち合えたと思っていた。
それは俺だけが思っていたっていうのか?

表情が歪んでいくのを止められない。
何か言葉を発しなければと思うが。
口に出してしまったらとんでもない泣き言を零してしまいそうで。
俺は何も言えなかった…。