雪穂を想う気持ちと同様に、酒造りに対する想いも強くなる。

酒造りを一度でも経験したら。
ワインが世界一愛されてると言われて腹が立つのも頷ける。
今さらだけど。
あの時雪穂の前で蘊蓄を語ったシーンを削除したい気持ちだ。

雪穂は酒造りの大変さと、その崇高な技術や蔵人たちが込める思いを知っていたからこそ。
俺に苦言を呈したのだ。

「ほんと、なんもわかってなかったのな…」

タイムマシンがあればあのときの俺に会いに行って言ってやりたい。
恥ずかしいことを言うなって。

今俺が住まわせてもらっている離れの一室には。
酒造りを一旦終えた後、皆で記念撮影した写真が大きく引き伸ばされて額に収まっている。
杜氏である親方をはじめ、蔵人が一堂に会した記念写真だ。

皆いい顔してる。
ひとつのことをやり遂げた男の顔。
達成感と充足感と安堵感と。
色んな感情が入り混じった、でも清々しいほどの爽やかな表情だ。

ここに来たのはついこの前だけど。
俺も見事に皆の中に入って、蔵人として肩を並べているのが不思議なくらい。
もう何年も一緒に働いているような。
そんな錯覚に陥ってしまう。

最初はどうなることかと思った。
でも親方の…杜氏の言葉の通り一生懸命頑張れば必ず俺の本質を見てくれる。

それは…
田舎だろうが都会だろうが関係ない。
どこにいたって。
嫌なヤツもいいヤツもいる。
要は自分次第なんだ。