それからの俺たちは微妙な雰囲気のままそれ以上先へ進むこともなく。

俺が修行を終えたら。
少し前進したい。

っていっても修行を終えるなんていうのはいつの話か。
本格的に修行してものになるまで約七年から十年という話も聞く。
さすがに十年は長いよなぁ…。

少なくとも俺が雪穂を守ってやれると自信を持てたとき。
そして雪穂が俺と一緒にいると安心だと思ってくれたとき。

その時が日本酒でいうところの”飲み頃”なのではないか。

でも俺の僅かな変化も。
一緒に働いている門脇には隠し通せないようだ。

今朝。
出勤した俺の顔を見て。

「いつもと違う。なんかあった?いいこと?」

いきなり図星な指摘に恐れ入った。
と同時に。
この人に観察眼が備わっていると思っていなかった自分を恥じた。
誰のことも勝手に決めつけるのはよくない。

俺がそれを身をもって経験したのに。
喉元過ぎれば熱さを忘れる、とでも言うべきか。
過ぎ去ってしまえばあれほどの悔しさも。
煮えたぎったお湯が蒸発して少なくなっていくように。
なくなってしまうものなのか…。

「別になんもないですよ」

さらりと言ってのける。
でも疑いを持った視線を投げかけてくる門脇はきっと俺の言葉を信用していないだろう。
でも現段階では。
俺よりも彼女の立場を守るために。

余計なことは言わないに限る。