気付けば雪穂はさっきまでより少し落ち着きを取り戻していた。

「お食事の時間が減っちゃいましたね…」

「あぁ…でも…なんか感無量です…色んな意味で…」

はっきりと答えを出さずに曖昧な形だけれど。
今はこれでも充分すぎるほど幸福だと思えるから。

「とにかく…あの…これからも宜しくお願いします…」

まるで新妻のようなセリフに息が止まりそうになる。
でも俺も。
これからずっと君の傍で一緒に季節を感じて生きていきたいから。

「こちらこそ…宜しくお願いします…」

それからなんとなく微妙な雰囲気の中、彼女の作ってくれた昼食を食べ食後のコーヒーを味わっている。

特に会話があるわけじゃないが。
かといって居心地が悪いわけでもない。

二人の間に流れる空気。
それは明らかに今までとは違う
初々しい熱を孕んだ空気に変わっている。

なんだかくすぐったいけど。
俺にとってはこれがまるで初恋みたいに。
甘酸っぱくて切なくて。
ちょっとだけ寂しい。

そんな少年のような感覚を。
初めて持ったかもしれない。

三十路にもなって笑える。

遅すぎる俺の初恋。
これが最初で最後の本当の恋。

もしかしたら掴むことができないかもしれないと思っていた君の心が。
俺に向かって来てくれた。

だからもう二度と離さない。
君の心も。
俺の天職だと思える仕事も。