でも途中まで嘘かもしれないと思っていた事実に俺は少しウケた。

「フフッ…」

思わず漏れた笑い声に雪穂が大袈裟に反応する。

「笑わないでください!これでも…必死、なんです…から…」

「すみません…笑ったのは決して…あなたをバカにしてるとかじゃないんです。俺ね。自分でも驚くほど今回は行動力あったんですよ。その原動力になったのがもちろんあなたへの気持ちなんだけど…。さすがの俺もこの土地に住んで酒蔵で修行するのは嘘や演技ではできませんよ」

俺を見上げる雪穂を優しくみつめる。
愛しさが駄々漏れて、きっと誰からもデレデレに見えるだろう。

でもそれは恥ずかしいことなんかじゃない。
俺が勝ちとった彼女の愛情を。
皆に知らしめてやりたい。
堂々と高らかに宣言したいくらいだ。

とはいってもまだまだ下っ端の俺。
蔵の跡取り娘である彼女との色恋話なんてまだ早い。
きっと誰もがそう思うだろう。
彼女に相応しい俺には。
まだ到達していない。

だから…
嬉しい気持ちのままで。
彼女に向き合うのはもう少し先だ。
俺が誰から見ても恥ずかしくない蔵人になって。
自分でも己を誇れるようになって。

それからでもきっと
遅くない。

俺たちの恋は…
日本酒みたいにじっくり寝かせて一番いい状態になったときに取り出す。
日本酒は一年で新酒ができるけど。
俺たちの恋は一年で実らなくたっていい。
一番熟したときが…来たら。
それがいつになろうとも。

二人の想いが重なったそのときに。