「…なんだか…よく、わかんないです…今のこの気持ちが…。感激とか感動とか…そんな一言で表せるようなもんじゃなくて…。色んな感情が綯交ぜになって…そこには負の感情もあったりして…、あっ!負の感情って言っても後悔とかそんなんじゃないんです…あくまでも前向きっていうか。俺ももっと直接酒造りに関わりたいとか、もっと身近に酒を感じたいとか、そういうちょっとワガママな部分で…」

「ありがとう…ございます…」

「へっ?」

雪穂がなぜ俺に礼を言ったのか、その意図が汲めずに声が裏返った。

「うちの家業に…日本酒にそこまで思い入れてくださるなんて…本当にそこまでとは思ってなかったんです…。もちろん…加賀見さんの本気は伝わってました。でも。蔵の修行は本当に大変で…都会育ちの加賀見さんには無理かもしれないと…どこかであなたを見くびっていたのかもしれません…。だからお礼もですけど…謝りもしないといけない…」

「謝るなんてとんでもない!あなただけに限らず…蔵の皆も最初はそう思ってたはずです。だからそんなに自分を責めないでください。俺は…」

あなたのためだから…
だから頑張れた…
なんて言えるはずもないが。

そこでグッと唇を噛む。
ただでさえ罪悪感が募っている様子の雪穂にそれを言えば。
確実に十字架を背負わせるから。

「俺は…新しく自分をみつけたかったんです…。今までの…過去の自分を一切洗い流して…生まれ変わりたかった…。そのためには東京(あっち)にいないほうがよかったし、仕事も何もかも…すべてを一からスタートさせたかったんです。これは単なる俺のワガママです」