母屋に入って食堂へ急ぐ。
ドアを開けると雪穂がテーブルに頬杖をついて座っていた。

「あっ、加賀見さん!搾り…終わったんですか」

「はい…たったさっき…。それより雪穂さん!メシまだってどういうことですか?俺なんて待たずに、親方と一緒に食べてくれてよかったのに…」

責めるような言い方になってしまったためか、雪穂は少し寂しそうに俯いた。

「ごめんなさい…」

その表情に罪悪感が募る。
何やってんだよ、俺は。
肝心の俺が彼女にこんな顔させちゃダメだろうが!

「いえあの…謝らないでください。あなたが心配だからちょっとキツイ言い方になってしまって…」

俺の言葉を遮るように雪穂が話を始める。

「今日は!斗瓶囲いの搾りを担当されるって…父から聞いて…。それで…きっと全部の酒を取りきるまでは持ち場を離れられないだろうと…。でも終わったらとても疲れているだろうから…」

俺のことを考えて…待ってくれていたのか?
こうなっていることを予想して?
一人で抱えきれない数多の感情を持て余すのを想定して?

ああ…。
俺は今。
さっきとは違う意味で感動している。

雪穂が俺の感情にシンクロしてくれた。
そして一緒に感動を分かち合おうとしてくれている。
その事実に。
喜びで打ち震えてしまう。