途中お互いに休憩を少しずつ取りながら見守りを続ける。

中田さんがおもむろに立ち上がって言った。

「そろそろ責めが終わるな」

「いよいよですか…」

「あぁ…疲れたろ?溜まった瓶を運ぶんも気ィ遣うとったな」

言いながら中田さんがクスッと笑った。
平常心を装っていたつもりだったのに。
気付かれていたんだ…。

「バレてたんですか…」

「悪かったなぁ。ワシもいきなり頼むのはどうかと思ったども。やっぱりなぁ、実際に斗瓶を持って、その重みを感じて、ワシら職人の心意気を直に感じて欲しかったけん」

恐らくそうだろうと思った。
思ったから、緊張している本心を隠して敢えて従った。
きっと俺に職人の思いを伝えたいのだろうと思ったから。

中田さんの思いは見事に俺の腕に、肩に、ずっしりと重く伝わった。
一年。
皆が心を込めて。寝る間も惜しんで。夏は暑さを。冬は寒さを耐え忍んで。
そうして搾った酒。

その重みは実際の重量と関係なく、俺の心にもずっしりと響いたのは間違いない。

「これでしばらく置いての。オリを引いて上澄みだけ取る作業があるが…それは杜氏の采配でするけん」

「中田さんの仕事じゃないんですか?」

「もちろんワシがやるんだども。どのタイミングで上澄みを取るか決めるのは杜氏だけん。早すぎても遅すぎてもいけん。絶妙なタイミングは正に杜氏の経験でしかわからんけんの」

さすが…
杜氏は酒造りの最高責任者だから。
酒の味を決める瞬間は当然自らが出張って来なきゃいけない。