「厳密に言えばな。精米して枯らしをやった後でも乾いた米は驚くほどのスピードで吸水するんじゃ。だけん洗米している間も水を吸うとる。洗米の段階から浸漬時間に組み込まれとるけん。最初っから気を抜けんだ」

「うちは精米は他所でやってもらってるんでしたよね?」

「そげだ。自分とこで精米できればそれが一番ええが…。精米機を管理するのは金も労力もかかるけんの」

「一日中精米機を動かして、一旦冷やしてまた動かして、ですもんね…」

「それに大量に出る糠。それもなんとかせないけんしな。まぁ精米する業者を信頼してねと難しいの。大吟醸用、吟醸用、普通酒用と何段階かに分かれとるから」

「うちはその点大丈夫なんですか?」

「ずっと決まったトコに頼んどるけん。大丈夫だろ。どのみち米自体が同じ生産者であっても同じ田んぼであっても味が違うけん。まったく同じ状態で酒造りはできねぇってことだわ」

「大変ですよね…」

俺がしみじみそう言うと中田さんは豪快に笑い飛ばす。

「大変かぁ…。こうやって話してみると大変そうに聞こえるかもしれんけど、実際ワシは大変や、思ったことがねぇなぁ。面白い、とは思うだども」

「面白い?」

中田さんの言葉が俺には意外だった。
さっきの話は誰が聞いても大変だと思うだろうにまさか「面白い」なんて言葉が出るとは。