しかし目の前の女。
最初からここにいたっけ?
それくらい印象が薄かった。
それもそのはず。
周囲の女性たちが華やかに着飾っているのに比べ、目の前の女は銀縁メガネにひっつめ髪。服装も紺色のパンツスーツで就活かなんかと間違えてんのかと思うほどだった。

だが俺に向ける鋭い視線は緩む気配がない。
俺に気がある…ってわけじゃなさそうだな。
仕方ない。
気に染まないが相手してやろうじゃないか。

「何か私の顔についていますか?」

突然話しかけた俺に、女が驚きの表情を見せる。
いやいや。見てたのはそっちだから。
不躾なくらいマジマジと見られたら誰でもそういう反応するでしょ?

「さっきから何か言いたそうに見ているので…」

「あの…あなたはご自分がワインを崇めていらっしゃるからかもしれませんけど、皆が皆ワイン好きじゃないと思います」

は?
いきなり何を言い出すんだ、コイツは?