「ほんとに…そのとおりだと思います…」

「だけんな。アンタの顔はそういう顔になってきちょる、言うてんのだ」

それは。
俺にとって何よりの褒め言葉だ。
今までこの顔で得をしなかったかと言えば嘘になる。
でも反対に、俺という人間を容姿以外の面から見てもらったことは数少ない。
だから俺はこの顔を自慢はできなかった。

今なら…
少しだけ…好きになれるかもしれない。
長年苦しめられてきた、この顔を…。

「ほな、そろそろだけん」

「はい」

一つ目の斗瓶に液体がゆっくりと落ちてくる。
乳白色のそれは艶がある。

「全部で八本の斗瓶に取る。最初に出てくるんはだいぶ白いけんな。二十リッターほど先に取ってから本格的に取るけん。大体、そげだの…三時間くらいかの」

「三時間!」

「一人じゃトイレも行かれんけん。何人かで見とかないけん」

「はい…」

言いながら中田さんが二十リッターになった瓶を見せてくれる。

「だいぶ白いだろ?なんぼ上澄みを取っても最初に出た分は味が荒すぎるけんの。これを取ってから次の分が本格的に斗瓶囲いになる分だわ」

最初に出てきたものを「あらばしり」と呼ぶのはそういう理由もあるのかもしれない…。
よく鑑評会に出品する大吟醸は「中取り」と呼ばれる真ん中あたりで取る分だと聞く。
袋吊りでない搾り方で搾った最後の「責め」は最後一気に圧をかけて搾るから少し雑味があるのは否めない。

元は同じタンクの醪。それが搾りの段階で同じタンクのものとは思えないくらい味が変わるのだという。

俺はまだ、そこまで味の違いがわかるほど日本酒を味わっていないんだが…。
いずれはその違いもわかる日が来て欲しい。