いよいよだ。

大きな袋を手慣れた様子で次々と吊るしていく。
すべてがこの搾り方ではなくて、槽で搾るのもある。

俺は今回この袋吊りを見守る役割を担っている。
半人前だから他にも熟練の職人が一緒にではあるが。

俺の持ち場を担当するのは搾り担当である船頭の中田さん。
先般の昇格で二人が釜屋に上がったため、彼が初めてリーダーとして手腕を見せることになる。
そうはいっても彼は高校卒業後にこの蔵へ来て今年で四十年を越えるベテランだ。
心配する必要などない。

「加賀見。ええ顔しとるな」

「えっ?」

投げかけられた”ええ顔”という部分に思わず反応してしまう。

「イケメン、いう意味違う。責任ある男の顔になっちょるいう意味だわ」

「……」

俺のトラウマになっている意味での”ええ顔”じゃなかった…。
ホッと安堵した俺に中田さんが突っ込みを入れてきた。

「なんや、イケメン言われた方が嬉しいか?」

「ち、違います!…そうじゃなくて…」

言葉に詰まる俺に中田さんは優しく続ける。

「確かにアンタはイケメンだわね。でもなぁ、ワシは顔がええいうんはどうでもええ。仕事しとる男っちゅうんは顔にその仕事に対する責任やら誇りが出てこらんといけんのよ。この仕事に限った事でねぞ?どんな仕事しとってもただ流されるんでねくて、常に何か新しいもんを発見する、いう気持ちで、感謝して反省してやってくもんだとワシは思うちょる」

「はい…」

「そりゃ長い間仕事しちょったら、そうできんときもあぁけどの。うまくいかんこともあぁし、人間関係で悩むこともある。でもな、そこで腐っちゃいけん。立ち止まってもええ、休んでもええから、また立ち上がって進めばええんじゃ」