昇格した者達は初日でうまくいかない部分もあったようだが、なんとか午前の業務はそつなくこなせていた。

休憩をするため母屋に向かおうとした俺の背後から声を掛けられる。

「加賀見、ちょっといいか…」

この声は。
真瀬だ。
また何か因縁をつけるつもりか?
何を言われても俺は。
俺を信じてくれた親方と頭、そして雪穂のために。
これ以上の問題は起こさないと決めたんだ。

「はい…。なんですか?」

「ちょっと、こっちへ…」

真瀬は蔵を出て、死角になっている裏へと回った。

まさか人気のない場所でまた何か俺に仕掛ける気じゃないだろうな…。
冷静さを装いながらも最大級の警戒モードに自分を置いた。

「加賀見。今回の昇格…なんか聞いてるか?」

いきなりの真瀬の質問にどう答えるべきなのか。
やはり親方の意を汲んでおくべきだろう。

「いえ。何も…。今朝親方が言われたとおりなんじゃないんですか?」

「お前…。納得してんのか?」

「何がです?昇格は親方が決めたんです。俺が納得するとかしないの問題じゃないでしょう」

「けど俺は…」

俺は、なんだよ?
嘘ついて俺をはめて。
ここから追い出そうとしたって告白する気か?