「頭。昇格…って…」

「聞いてのとおりだ。親方が言われただろ。お前は今日から迫田と道具廻しだ」

「…はい」

真瀬は返事こそしたがまだその表情は何か言いたそうだ。
だがそんな真瀬を意に介さず頭は続ける。

「それから佐竹。お前が今日から道具廻しのリーダーだけんの。炭屋のリーダーは植田。船頭のリーダーは中田。釜屋は奈良岡。酛屋は森村がリーダーだけん。それぞれの担当でリーダーが新人を育てろ。何かあれば俺に言ってくれ。必要とあらば俺から親方にも相談するけん」

「「はい」」

皆が返事をすると頭は再び真瀬に言った。

「なんや、真瀬。なんか不満そうでねぇか?」

「いえっ!…不満なんて…」

「あんま嬉しそうには見えんが」

「そんな!…そんなことは…ありません…」

「期待しとるぞ。お前も、他の皆も。親方の気持ちを汲める奴等だとな。頑張れば上へ上がれぇけん。これからも頼むわ」

「はい…」

「皆もええな」

「「はいっ!」」

威勢のいい声で返事をした。
門脇が俺に近づいてきて小声で囁く。

「あの…加賀見。今日から俺がリーダーみたいなんで…よろしく…」

俺は心に蟠りがなくもないが笑顔で応える。

「よろしくお願いします。バンバン指示してください」

一瞬。
呆気に取られたような表情になる門脇。

「あ、ああ…。俺も当面は不慣れで迷惑かけるかもしんないけど…」

「大丈夫ですよ。迫田さんにずっとついてやってたんです。信頼してますよ」

そう。
少なくとも仕事の上では門脇は真面目で信頼できる。
それは嘘じゃない。