それは…
単純に考えれば不当な人事だと言える。
でも親方が考えたのだから無意味ではないはずだ。
俺はこの人を…
仕事の上だけでなく、人生においても師匠だと思っている。
だから…
親方の決めたことに従う。
それが俺の最善の道だ。

「わかりました…。親方の方針に従うだけです」

「加賀見…。アイツらも今回の人事には驚くに違いない。アンタがはめられた事情は…頭にだけは話してある。アイツらが今後またアンタを蔑ろにするようなことがあれば頭が黙っちゃおらん。だから安心して…今までどおり仕事に邁進してくれ…」

親方は。
ちゃんと俺のことを考えてくれている。

「岩田が…頭はアンタの仕事振りを褒めとる。アンタがはめられたんは頭も憤っておったが、仕事ではそんな素振りは見せん男だけん。だがな…頭は今まで以上に奴等には厳しく指導する、言うとった」

「それだけで…充分です…。俺には勿体ないくらいのお言葉です…」

「それとな…。アンタに頼まれちょったが、やはり雪穂には隠しきれんでの。食事に出て来らんのだから仕方ないが…」

やはり彼女にもわかってしまったか…。

「けどな。雪穂もアンタがそんなことするはずがない、言うとった。最初はあれが警察行く、言い出して…。宥めるのに苦労したわ」