「そんな…ことはしていません…」

「ここで話していても埒があかん。署まで来てもらおうか」

そこで親方が口を挟む。

「待ってください。いきなりなんなんです?この加賀見も真瀬もうちの従業員です。そんな一方的な話で容疑者扱いされたら困る」

「真瀬洋一さんから被害届が出とんのですわ。こちらも仕事なんでね。被害届が出た以上、調べないけんのです」

「それは…そうでしょうが…」

「加賀見さんは未成年でもないし、アンタがとやかく言うことはない。とにかく来てもらわんとあらぬ疑いがかかりますよ」

何が何だかわけがわからない。
でもここでごねて、親方に迷惑を掛けるのはもっとまずい。

「わかりました。誤解なんできちんと説明すればわかってもらえると思います」

そう言って、俺は心配そうにしている親方に背を向けた。

警察官が俺の両側に一人ずつ並ぶ。
拘束こそされてはいないが逃げようものならすぐにでも捕まえられると言わんばかりの圧力を感じた。

俺は振り向きざま、親方に小さな声で言う。

「彼女には…黙っていてください。余計な心配を掛けたくないので…」

親方はしっかりと頷いてくれた。

これで心配はない。
彼女の事は親方に任せて、俺はこの理不尽な疑いを晴らす。