真瀬はそのまま終業時間になっても蔵に戻ってはこなかった。

仕事終わりにも集まって終礼をするから真瀬の不在は皆の知るところとなってしまった。

頭が難しい顔で迫田に尋ねる。

「真瀬はなんでおらんね?」

ただでさえ強面の岩田が難しい顔をすると凄味が増す。

迫田はおずおずと一歩前に出て頭の質問に答えた。

「ちょっとした行き違いがあぁまして…出て行きよったんですわ…」

「出て行ったて、どこへね?」

「それは…わからんです…」

「そいでリーダーが務まぁかや?例え一番格下の追廻だ、いうてもな。部下を管理できんのはリーダー失格だ」

「すんません…」

「なんで出て行ったが?行き違い言うたが?どげな行き違いね?」

「それは…ワシが聞いたことにしゃんと答えんだったんで…ちょっとキツイ言い方で叱ったんですわ…」

「ふん…。そんくらいで出て行ったんか…」

「あの…」

門脇が横から何か言おうとする。

「アンタは黙っとけ。今はワシが頭と話ちょうけん」

鋭い視線を門脇に向け、迫田がそう言った。

迫田は事実を隠蔽する心づもりのようだ。
俺は…
どうしたらいい?
迫田の思いを踏みにじるわけにはいかない。
ならば沈黙を貫くのが賢明だろう。