「門脇っ!やめんかっ!」

迫田も一緒に門脇を押さえつける。
自由になった真瀬は切った唇を舐めてから何もなかったかのように立ち上がると、そのままいなくなった。

「このだらず(バカ)モンが!血で蔵が汚れたでねか!」

聞いたこともないような迫田の声だった。

「そげん、迫田さんがなんも言わんけんですが!いっつもアイツにバカにされて…腹立たんですかね!?」

「…アイツの挑発に乗ってどげする?ああいうのはな、言ってもわからん。ほっとくしかねぇけん」

「だけんって…俺は我慢できんです…」

「門脇の気持ちは嬉しいけどな…。無駄なことして、怒られるんはアンタだぞ?そげな理不尽は嫌だろうが」

「それは…そげですけど…」

「だったらもう…真瀬のことは目を瞑っとけ。ワシなら、なんとだいないけん」

俺は二人の会話に入れず。
立ち尽くしているしか術がなかった。
言っている言葉の意味も。
充分に理解できないのもあった。

俺に気付いた門脇が謝ってくる。

「加賀見、すまん…。おべただろ?」

おべた…は確か、驚くという意味だったな。

「俺も、真瀬さんの態度は如何なものかと思ったんで…」

「そげだろ?やっぱアイツはいけんよな?」

「そうですけど…。迫田さんの言うとおりにしといたほうがいいと思います…」

門脇はガックリと項垂れた。