俺は迫田に耳打ちする。

「迫田さん…いいんですか?何も言わないで…」

迫田は難しい顔でただ頷いた。
釈然としない何かが俺の胸の内に拡がる。
でも一番下っ端の俺が、仮にも先輩格の真瀬に物言いなどできるはずがなかった。

仕方なく作業を始めようとしたら、門脇が低い声で真瀬に言った。

「おい、真瀬!迫田さんになんちゅう態度か!アンタ、迫田さんをバカクソにしちょうだろ!」

「何…?」

門脇が怒鳴って振り向いた真瀬の顔には怒りの感情がありありと出ていた。

「なんだかね、そげん顔して!悪いんはアンタだがや!いっつも迫田さんの言わいこと無視してからに!」

「無視してないが。ちゃんと返事したけん」

「あんな失礼な言い方がちゃんとした返事か!?」

「気に入らないならアンタが言うんじゃなく、迫田さんが言えばええ」

真瀬は飄々と言い放つ。

門脇の顔がみるみるうちに赤くなり。

ヤバいと感じた瞬間。
門脇は真瀬の後ろから首根っこを掴んで床に倒してしまった。

「門脇さん!」

大声を出した俺に気付いた迫田が振り向く。門脇は真瀬に馬乗りになり、その頬を殴った。

「ダメですっ!門脇さんっ!」

俺は門脇の背後から羽交い締めにして殴るのを止めた。