「まぁ…そげに頑なにならんでもえわの。お嬢さんも時が経てば気持ちが変わぁかもしれん。加賀見はまず、早う蔵の仕事ができぃようにならんとな」

頭の言葉に皆頷いた。

「はい…。早く皆さんの役に立てるようになりたいです…」

呟くように言った俺に頭が微笑む。

「もうちょっとしたら…搾りの工程に入るけん。うちの一番人気の酒は斗瓶囲いいうてな。圧搾機械を使わんこに袋吊りいう搾りで自然に落ちてくるのをじっと待つんだわ。結構長い時間見守っとかないけん。全員が交替で見守るけん、アンタも一緒にやらんね?」

酒が出てくる瞬間に立ち会う。
そんな感動的な場面に俺も参加させてもらえるのか…。

「いいん、ですか?」

「当たり前だ。アンタも中上酒蔵の一員だがの。皆で喜びを分かち合おうで。ま、そいでも搾りが終わったら終わりちゅうんじゃねがな。その後もようけの工程を経てようやく酒ができあがるんだけん」

「…そうですよね…。でも搾りに参加させてもらえるのは嬉しいです。…ありがとう、ございます…」

頭の言葉と。
皆の俺を見る温かい眼差しに、またもや涙腺が弛む。

「泣くでねぇぞ!涙はの、新酒ができたときにとっておくもんだけん!」

「はい!すみません…」

「アンタ…。都会から来て、エライええ男で…酒造りなんてできぃかの?って思っちょったが…。なんのなんの、ここにおる誰よりも純だのぉ…」

頭は感慨深げにそう言った。

自分でもわからない。
東京(あっち)にいた頃はどこか冷めていて、何事にも熱くなるような男じゃなかった。
頭の言うように、俺の第一印象はそんなものだったろう。