修行を始めて一ヶ月が経った。
相変わらず追廻の立場は変わらない。
が、同僚とは徐々に打ち解けてきた。
正確には…
真瀬以外の同僚だけだが。

それでも俺には充分過ぎた。
真瀬は俺との間に距離をとっているようだが、他の二人は好意的に接してくれている。

他の担当者も手伝いをしているうちに自然と言葉を交わすようになった。

親方の座学が終了した俺は午後からも蔵の仕事に就いている。
午後の休憩は皆と一緒に休憩室でとるようになっていた。

各々が好みの飲み物を飲みながら雑談する。
それがここの休憩だった。

「ところで真瀬はどこ行った?」

質問したのは麹屋の須野(すの) だ 。

「さてなぁ…。外でも行ったじゃねですかね」

迫田が答える。
真瀬は俺が一緒に休憩するようになってから一度もここにいない。
マジでわかりやすいヤツ。
俺が気に入らないって言ってるようなもんだろうが。

「まぁ、アイツはここで一番若いけん。ワシらとは話が合わんかの」

迫田の話によると真瀬はここで唯一人、二十代らしい。
俺もまだ三十だが、営業の経験のお陰なのか、自分より年長の人と話すのは苦にならない。

「けど加賀見もまだ若いが?」

須野が俺を見ながら聞いてきた。