風呂場から雪穂が出ていく。

脱衣場で服を脱ぎながら彼女が言おうとしたことが何かをあれこれ想像してみる。
俺にとって嬉しいことなのかそれとも…
さっきの様子だけではどちらとも判断がつき兼ねる。
少し恥ずかしそうにしていたようにも思えるが…
その理由までは思い付かない。

考えても仕方ない。

風呂場の戸を開けると湯気が充満している。
すのこが敷いてある奥に湯槽…正確には大きな釜が陣取っていた。

これが五右衛門風呂か…
江戸時代にタイムスリップしたみたいだ。

湯桶も木製で、温泉によくあるタイプだ。
その湯桶で湯槽から湯を汲み、肩からかける。

熱い…。
体全体をお湯で流し、早速湯槽に入ってみた。

あぁ…
あったかい…。
不思議なことにお湯の底のほうがより温かい。
ジワジワと下から上へ温かさが昇ってくるような…
熱すぎないお湯はいつまでも入っていたいと思わせてくれる。
が、長湯して万が一寝たらいけないから。
髪と体を洗い、再び湯に浸かってから上がった。

タオルで髪をザッと拭いて肩にかけ、俺は親方の部屋の前で声をかける。

「親方、お風呂お先にいただきました。ありがとうございます」

「おう。すぐにあったこうして寝えや」

「はい。おやすみなさい」