「では…お言葉に甘えて…先に入らせてもらいます」

「そげしとけ」

「はい」

食事の後、俺は着替えを持って母屋に戻った。
雪穂の案内で風呂場へ行く。

「加賀見さん…うちのお風呂は五右衛門風呂なんです」

「五右衛門風呂?」

「所謂釜のような湯槽です。ちょっと狭いかもしれません」

「はい…」

「父の言うとおり、普通のお風呂よりもずっとあったまります。湯冷めもしにくいですから…」

「そうなんですね」

「都会では考えられないと思います。田舎でも、このお風呂はもう廃れて来ていて…珍しいかもしれませんね」

「初めてなんで楽しみです」

「フフ…。絶対に湯槽の中で寝たらダメですよ?火傷しますから」

「脅さないでくださいよ!さすがに…大丈夫です」

「上がられたら父の部屋に声だけ掛けてください。そのまま離れに戻られていいですから」

「本当にありがとうございます」

「ではあたしはこれで…」

「おやすみなさい…」

「加賀見さん、あの…」

「はい?」

「い、いえ!なんでもありません…。明日も…頑張ってください…」

何を言おうとしたのだろう?
無性に気になる…。
でも今は何よりも自分の体を厭わないといけない。