「食事が済んだら入るとええ」

「えっ!?」

奇声を発したのは雪穂だった。

やっぱり母屋の風呂に入るのはまずいんだ。
離れにないならいざ知らず。
ワンルームなんかよりも上等な風呂がついている。
それなのにわざわざ母屋の風呂に入らせてもらうなんて。

しかし雪穂の驚きはそのことではなかったようだ。

「お父さん、先に入るのよね?」

「いや。今日は加賀見を先に」

「そ…それは…」

「ワシは加賀見の次でええ」

「お父さん…」

二人の会話が見えてこない。
雪穂は俺が一番風呂を使うのを気にしているのか?

あ…
もしかしたら…

家長だから一番風呂は親方が入るのが習わしなのではないのか?

それなら雪穂が驚くのもわかる。

「あの…親方が先に入ってください。俺は後からで…」

「多少冷えとるかもしれん。はよ体あっためんとまずい」

「そんな…大丈夫です」

「自分の体を過信しちゃあいけん。アンタが今まで住んどったトコとは違うけん。これからもっと冷えるし明日はまた雪が降る」

さっきのうたた寝で体が冷えてしまったから。
早く暖めないといけないのか…。
夜半から早朝は特に冷える。

万が一風邪でも引いてしまったらまずいから。
ここは親方の言うとおりにしたほうが良さそうだ。