「加賀見さん!」

大きな声で呼ばれ背中を叩かれて我に返る。

いつの間にかうたた寝してしまっていた。

「ダメですよ!風邪引きます!」

必死の形相で俺に訴えかけるのは雪穂だった。

「あ…寝ちゃったんだ…」

「お疲れなのは無理もありませんけど…うたた寝したら間違いなく風邪を引きます。そんなことになったら蔵で働けない…」

そうだった…。
いかなる雑菌も入れてはいけない蔵に、風邪の菌などもってのほか。
そんな大切なことを…
何やってるんだ、俺は…

「なかなか来られないから様子を見に来たんです。そんなに時間は経ってないから大丈夫だと思いますけど…」

「すみません…」

「とにかく母屋に行きましょう。父も待ってますから…」

「親方をお待たせしちゃいけませんね」

二人で母屋に戻り食堂へ入ると、親方はまだ箸をつけずに座っていた。

「親方…申し訳ありません」

「大丈夫なんか?」

「ちょっと…うたた寝してしまって…」

「風邪は大敵だ。気をつけろ」

「はい…。申し訳ありません…」

「ええからはよ食え。食ったら雪穂、うちの風呂に入らせてやれ」

え?風呂に?
風呂はさすがに…
離れで充分だ。

「親方…風呂は離れので大丈夫です…」

「こっちの風呂のほうが芯からあったまるけん」