「がっしょ?」

またもや方言の壁だった。

「あぁ…一生懸命、いう意味だわ」

「すみません…。わからなくて…」

「仕方ねわの。こっちの言葉は特殊だけん。こんなんはまだまだ序ノ口だけんな。年寄りの言っちょることはワシでもわからんのがあぁけん」

「そうなんですか」

「ここにはそげん年寄りはおらんが、近所の()は年寄りが多いけん。なんぞ言われぇかもしれんが大方わからん思うわ」

「それは困りますね…」

「それも慣れえしかねわ。親方に方言も習うだわ。ほら、そろそろ行かんと」

「はい…」

迫田に会釈して、俺は蔵を出た。

迫田は悪い人ではないと思う。
でもなんとなく、無難にやり過ごそうとしているように見受けられる。
初対面で決めつけちゃダメだとは思うが…

このときの俺はまだ、田舎特有の人間関係に後々悩まされることになろうとは夢にも思っていなかった。

暖々の店主が言っていた言葉の意味を理解するのはまだもっと先の話で。
俺は修行以上に難しい田舎の人間関係を軽く見ていたのかもしれない…。

そして午後からの座学を受けるため、俺は母屋に戻る。

親方と初めて対面した部屋へ、ノートと、持ってきた専門書を携えて入った。