たかが掃除といえど、隅々までブラシで水洗いするのは決して楽じゃない。
午前中だけで腰にかなりの負担がかかっている。

他には道具廻しの皆の手が回らないことを手伝う。
床磨きですら徹底的なんだから、酒造りの道具ならば尚更だ。

道具廻しの担当からは厳しいチェックが入り、何回かやり直させられた。

「加賀見さん、休憩行くだわ」

迫田に言われてハッとなる。
もうそんな時間か…。

「はい…。ありがとうございます」

だるい腰を拳でトントンと叩きながら母屋へと向かう。
玄関を開けるといい匂いが漂っていた。

洗面所で手を洗い、食堂に入ると、雪穂が例のエプロン姿で台所にいた。

毎日数回これを見られるなら疲れなんて吹っ飛びそうだ…。

そう思いながら雪穂に声を掛けた。

「お疲れ様です」

「あっ!加賀見さん!お疲れ様です…。どうですか?初日の感想は…」

「いやぁ、大変ですね」

「やっぱり…」

雪穂の顔が曇ったのを見て、俺は慌てて付け加える。

「いえ、慣れないことをしたら誰でもそうなんです。特にあんなふうに徹底的に掃除なんてしたことなかったんで。体が(なま)ってる証拠ですね」

俺は笑顔でそう言った。