「じゃあそれぞれの持ち場で仕事を始めて」

親方はそれだけ言うと蔵を出て行った。

親方がいなくなった途端。
迫田以外の従業員が俺に近づいてきた。

「頭の岩田(いわた)です」

頭。蔵のナンバーツー。
がっしりとした体格で角刈りの彼は見ようによってはその筋の人のようだ。

「宜しくお願いします」

続いて麹屋、酛屋(もとや)、釜屋、船頭、炭屋、道具廻しの皆が自分の名を名のり挨拶してくれた。

麹屋は責任者を含めての三人。
酛屋と釜屋はそれぞれ二人。
船頭と炭屋がそれぞれ三人。
道具廻しは四人。

そして追廻は迫田の他に、真瀬(ませ)門脇(かどわき)計三人で俺を含めて四人のチームとなる。

蔵全体としては総勢二十三名。
この数が多いのか少ないのか…。

初対面でこれだけの数、全員の名前と顔を覚えるのは容易ではなさそうだ。
だが少なくとも自分が属するチームの三人だけはちゃんと覚えないと。

俺は全員に頭を下げ再び「宜しくお願いします」と言った。