八時半より少し前になり、俺は親方と共に蔵へ向かった。
更衣室の場所を聞いて作業着に着替える。

いよいよ同僚との対面だ。
緊張していないといえば嘘になるが…
どこか期待もあった。

県内に止まらず全国のマニアの間でも人気があるというここの日本酒。
それを造っている人達。
一体どんな人達なんだろう?

親方に連れられて行った先にはすでに従業員とおぼしき面々が一列に並んでいた。

「おはよう」

親方が挨拶すると皆が一斉に頭を下げて「おはようございます」と返す。
そのきびきびとした所作に目を奪われた。

続けて親方が俺を紹介する。

「今日からここで皆と一緒に働くことになった加賀見章悟くんだ。宜しく頼む。加賀見、挨拶を」

「はい。…初めまして。只今紹介に預かりました加賀見章悟と申します。素人なので色々とご迷惑をおかけするかと思いますが、一生懸命頑張りますのでどうぞ宜しくお願い致します」

そう言って頭を下げると、全員が頭を下げ返してくれた。

「加賀見は追廻の仕事から始めてもらう。迫田、コイツの教育担当をお願いする」

迫田という従業員が一歩前に出た。

「承知しました」

親方の言っていたとおり、温厚そうな少し年配の男性だ。

「宜しくお願いします」

俺は迫田に向かって頭を下げた。