「ありがとう、ございます…。野菜はうちの畑で作ってるものもあるんですよ」

「えっ!そうなんですか!」

「この辺りではどこも畑持っとるけん」

親方がそう言う。
そうか。
田舎じゃそれが当たり前なんだ。
そして親方は俺を見て言った。

「酒の仕込みが終わった夏はな、焼酎造ったりもあるが畑も手伝ってもらうけん」

畑?
俺が、だよな?

「あの…まったく経験ありませんが…」

「心配すな。酒造りよりは簡単だ」

「はい…」

俺の不安が伝わってしまったのか、雪穂が親方に苦言を呈す。

「お父さん…加賀見さんに畑までしてもらわなくても…」

「何言うちょる。加賀見はうちの蔵でやる気なんだろうが。ほんなら皆がやっとることと同じことはしてもらわないけんぞ」

「でも…」

「加賀見だけを贔屓するわけにはいかん。また…」

親方はそこまで言いかけてやめた。

雪穂と親方の間に一瞬不穏な空気が流れる。

「雪穂さん。俺なら大丈夫です。なんでもやるつもりで来たんですから」

「加賀見さん…」

「一日も早く役に立ちたいと思っています」

「ありがとう…ございます…」

雪穂が俺に礼を言うと再び親方が割って入る。

「なんもお前が礼を言う必要はねがの。加賀見は自分がやりたい、言うとるんだけん」