廊下で佇んでいると、「加賀見さん!」と声をかけられた。
振り向くと彼女が立っていた。
エプロン姿で…。

その光景だけでもうノックアウト状態になる。
なんか…いいな…。

うちの母親も姉も、料理は苦手だ。
いつも高級デパートの惣菜や、外食が多かったから家でエプロンをつけて料理をしている姿なんてほとんど見たことがない。

ボーッと見とれてしまう。

「加賀見さん?あの…朝食の準備ができたので…」

「あっ…すみません!どこに行けばいいのかわからなくて…」

「そうですよね!こちらこそすみません。どうぞ、こちらです」

彼女に言われてついていく。

彼女の部屋とは反対側の突き当たりのドアを開くと、純和風家屋とは似つかわしくない洋室の食堂があった。

台所と六畳ほどの広さの部屋にはダイニングテーブルと椅子が置いてある。

親方はすでに着席していた。

「すみません。遅くなって…」

「ええから座り」

親方は自分の向かい側の椅子を指しながらそう言った。

向かい側の席には既に箸箱が置かれている。
なんで箸箱?
見ると親方の席にも、恐らく彼女の席であろうところにも置かれていて、そのすべての色柄も違っている。