翌日。
俺は早朝から起きて準備をしていた。
言われたように六時に起床してから母屋に行けばいいのだが。

色んなことが気になって、随分と早く目覚めてしまった。

所在なく炬燵に入っていると玄関が開く音がした。

「加賀見。おるか?」

杜氏の声だ。いや、親方と呼ばなきゃいけなかった。

「はい!」

返事と同時に炬燵のスイッチをオフにして俺は玄関まで急いだ。

「なんや、もう着替えとんのか。着替えは蔵にある更衣室ですんのや。ここで着ると雑菌がつくだろが」

「あっ…すみません!」

「まぁええ。着替えたら母屋へおいで。朝食だけん」

本当に三食いただいてもいいのだろうか。

「え…と…」

「しばらくは無給だけん。賄いは雇い主の責任だからの。わかったら(はよ)うな」

「はいっ」

食事の心配をしなくていいのは正直助かる。
退職金とこれまでの貯金でしばらくは大丈夫だが、無給期間がどのくらいなのかわからない以上、あまり調子に乗って散財するわけにはいかない。

そんなことを考えながら着替えをし、俺は母屋に向かった。

いつものように玄関の引き戸を開け中に入り、そのまま上がる。

部屋に向かったとき、ハッとなった。

そうだ。
母屋でわかっているのは昨日通された部屋と…
彼女の部屋の場所だけ。
食事をする部屋はどこかわからない。

どうしたものか。
彼女の部屋まで行ってみるか?